跡を継ぐというより、万年筆!
今回、お話を伺ったのは川崎文具店の店主、川崎紘嗣さん。
川崎さんは“万年筆のコトを話したくて仕方がない”という方。振り返ってみると、話の7割は万年筆のこと。“ペン”という語源の由来、万年筆ができたきっかけ、想像しなかった万年筆の扱い方など、とても面白い話ばかりで。
全部を紹介してしまうのは、もったいない気がするので今回はその一部をこっそりと。
残りは川崎さんを尋ねてみてくださいな。
岐阜県大垣市。岐阜県の中でも2番目に多くの人口が住む町で、大垣駅から南の商店街には人通りと賑わいがある。
お店はその商店街を少し外れたところにあり、大垣駅から500mほど。
川崎文具店の5代目として、店主を務める川崎紘嗣さん。
「自然な流れですよね。おぎゃあ、と生まれてきたら文房具に囲まれてたもんね」
「たぶん、学校で使う道具だけしか囲まれてないならばもう“生活道具の一つかな”っていう感じなんだけど、文房具って趣味性の高いものってあるでしょ。僕はそういうのが好きで。で、文房具の歴史をさかのぼっていくと、人類の発達・文明の発達とともに必ず、そこに存在するんですよ。それを深く考えるとロマンがあるでしょ」
「例えば、羽ペン。ラテン語で羽のことを“ペンネ”っていうんですね。あのペンネって、ペンの語源になってるんですよ。つまり羽がペンの語源になってる。なんだかワクワクしません? 最も古い筆記用具は中国では毛筆、ヨーロッパでは羽ペン、エジプトの方では葦って植物でヒエログリフを書いてて」
こうした川崎紘嗣さんの好みがあって、バブルの時期に重なる4代目の時の“売れるものだけを売っていく”というお店の在り方から、現在は趣味性の高い万年筆に力をいれているお店に変えたのだそうです。
「やっぱ売るのにその歴史を知らないとか、ただ商品を並べてお客さんが勝手にきて買っていくようなお店にはしたくなかったので、ある程度そういったストーリーを調べだしていったら止まらなくなった。そうして調べていくと、先々代や前の人たちは万年筆に力を入れて販売してたんですけど、その理由がなんとなく分かるようになってきたんですね」
こうして、5代目川崎さんの川崎文具店は万年筆に力を入れたお店として9年前にスタートした。
お店には、日常文具と3000円から数十万円の高級筆記具が並んでいる。そこにまぎれて、ふら~っと限定ものの万年筆がいくつかあったりもする。
「売れ残ったら、売れ残ったでいいと思っている。売れ残ったら僕のコレクションとして毎日、眺めています。だから、売れると『手元から無くなっていく~』と泣く泣く売っています。でも、独り占めしちゃうとただのコレクターになってしまう。自分は万年筆の良さを共感してほしくて」
「ここにあるウォーターマンというメーカーの万年筆なんか、とくにそう。このウォーターマンのセレニテっていう、そりの入った万年筆なんか限定品でもう手に入らないんですよ。鷹蒔絵が施されてて、ここに『40/120』って書いてある。世界で120本しか作られてないんです。で、割り当てっていうものがあって、日本には36本しか来てなかったみたいなんですよ。すごく日本風のデザインだけど、作っているのはフランス、パリのウォーターマンというメーカーで」
ここからさらに、万年筆トーク。
「ちなみにウォーターマンというのが、世界で初めて万年筆の仕組みを作った人なんです。その人はもともと、保険の外交員をやっていた人で。ある時、すごく大きな取引があって、昔のペンってよくインク漏れを起こすから、その人はわざわざ新品のペンを用意していたんです。書類もなにもかも用意して、あとはお客さんの所に行ってサインをもらうだけってなったときにお客さんにペンを渡したら新品なのにインク漏れを起こしてしまった。書類を取りに戻ったら、その間にライバル会社にその契約を取られてしまったんです。」
「ふつうだったら、『あんたんとこのペンのおかげで』ってクレームでも行くところですが、その人は『だったらインク漏れを起こさないペンを作ろう』となったんですね。毛細管現象を利用したペンがそこで生まれたわけですよ!それが130年前」
他のメーカーの万年筆のお話、贈り物としての万年筆のお話、万年筆を研ぐというコト、地元で開催している文房具講座のコトなども色々とお話を伺いまして。
川崎文具店は必ずしも、大きな百貨店に比べて品揃えが多いわけでもない。「なぜうちに来るのですか」とお客さんに聞いたことがあるそうで、百貨店はすごい人混みを歩いてやっとたどり着く。で、商品が並んでいる。選ぼうにも、店員さんが何か教えてくれるわけじゃない。
川崎さんはお客さんがしっかりと納得するまでお話してから購入してもらうようにしている。ここでは、試し書きも全てできる。
「いつもお客さんに言うんですけど、万年筆とかの高級筆記具を買うって文房具に一万円を出すこと。ふつうは『え?』ってなりません?普通の文房具なら100円でも売ってるんだから。でも、それを1万円、2万円3万円出してでも買うっていう理由はやっぱり、僕の会話とその万年筆のストーリーがクッションになっているんだと思う」
取材におとずれた日の前日は4時間ほど滞在されたお客さんがいらっしゃったそうです。これまでで、一番長くいらっしゃったお客さんだと9時間くらいだそう。その方はお店のオープンからずーっといらっしゃったのだとか。ずーーっと試し書きをしていて、お昼を食べに行ってからまた戻ってきて。なんてことも。
川崎文具店のおもてに、“文房清玩”と書かれた看板がある。昔、中国で使われた四文字熟語で“自分の書斎にお客さまをお招きして、珍しい文房具をめでる”という意味だそうで、この川崎文具店がやりたいことなんだとか。
「ここが僕の書斎で、『お招きして珍しい文房具を見ながら笑って過ごそっ』ていうコンセプトだから売るコトが目的じゃない。だからネット販売であんまり売りたくないし、極力対面販売でやりたい」
「ここに来てお客さんに一本ずつ触ってもらっていろんなインクの種類もたくさんあるわけだから、ペンとインクの相性、それとペンと紙の相性、インクと紙の相性、この三すくみによって無限の書き心地が生まれてくるのが万年筆だからこれをとことん突き詰めて楽しんでいこうという。そういうようなお店作り」
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