パンの魅力に引き込まれて
パン屋さんに、並ぶパンたち。「どれがおいしそうかな~」っと見るコトはあっても、同じパンはやっぱり、どれも同じモノに見える。
でも、同じに見えて違う。いろいろな環境や要因で、その形や色、おいしさが違ってくるみたい。
そう教えてくれたのは、モリタ製パン所の森田さん。
「いろんな工程を経て、パンが作られます。だから、イーストの発酵、湿度、温度、焼き時間、そしてパン職人の方の手わざ、クセなど日々の環境や様々な事象によって大きく結果が左右される。それが、すごくおもしろいなって。もちろん、パンは好きなんですけど、それ以上に気になるというか、見てて面白い素材だなっていう」
森田さんは、普通科の高校を卒業後、芸大に進学。その芸大時代にパン屋さんでアルバイトをしていたそう。そして、在学中に本物のパンを使ったインテリアライト、“パンプシェード”を製作された。卒業後、デザイナーとして社会人を経験したのち、パンプシェードのデザイナーとして現在に至るという。
パンプシェードのきっかけは、廃棄されるパンを見てとのこと。
「日によっては、多く余ってしまう日もあって。でもやっぱり、捨てるの嫌じゃないですか。作ってる人がみえてるし、私だってその一部を担っているわけだし。それで、人に渡したり、家に帰って食べたりもしたんです。それでも消化しきれない時、“食べる”か、“捨てる”しか、選択肢がないことに疑問を抱き、パンを素材とした作品作りを始めました」
「私がパンを好きに思う所って日々のパンの表情の変化、細かいディテール、パン屋さん全体の空間や雰囲気だったりと、“食べ物”としての認識だけじゃないところも好きなんです。そういう部分を作品として組み立て直して、もの作りができないかと思い、製作しました」
そうしてできたのが、パンプシェード。(ほんとにパンで、パンが光ってる...) このパンプシェードは、パンそのものには意匠を施さない。芸術家として、パンに凝った工夫やデザインを施そうと思えばできるはず。でも、それを考えたことは無いそうです。
「それをすると『粘土でもいいんじゃないの?』って思う。作っているのは、いわゆるオーソドックスなクロワッサン、クッペとかパン屋さんだと普通なパンで作ってる。人がパンって認識できるアイコンみたいな、そういう部分が重要だと思っているので、変わった形を作るって言うのは、全然興味がないですね」
こうして、本物のパンでパンプシェードを作っているそうですが、パン屋さんへお願いしに行ったとき、初めはいい反応ではなかったそう。
「最初、『なにいってんの、この人?』って感じだったと思う。ですけど、私のパンに対する思いとか、作品のコンセプトをきちんとお伝えしたら、すごく喜んでくださって。パン屋さんとして、一番の目的はおいしく食べてもらうコトだけど、自分で作ったものが誰かの手元で大事にされて、ずっと残るってのも、一つの大きな消費のされ方だって認識されて喜んで作ってくださってます」
こんな経緯もあり、パン屋さんからはある程度、形の整ったものが届くそうですが、森田さんは同時にこうも考えているそう。
「個人的には曲がっていても、少し割れていても、面白いと思う。けど、それをB品と見るか、パンの面白みと見るか。面白い部分だと思うんですけど、クレームの対象になったりもする。パン屋さん側も『形の整っていないモノを渡したくない』という思いもあるみたいで」
こういうこともあり、フードロスとして廃棄されるパンを作品として扱うには、まだ少し時間が、かかるみたいです。ですが、森田さんとしては、早急にでなくてもいいから、今後も自分のできることを少しずつでもやっていきたいと考えているみたいです。
この写真のパンは、パン屋さんが用意してくださったもの。そこにも、工程でのちょっとした変化から生まれた、一つ一つの形の違いがあるみたい。
そんな森田さん、学生時代にパンプシェードの製作をしたときは「めっちゃ、いいものをつくれた~」と思っただけで、これで生きていくとは考えていなかったよう。その後、社会人生活の中で、ふと作り始め、新たな試行錯誤の中で、だんだんと本気になっていったそう。
「退職に踏み切ったのは、『仕事でもきちんとしたい』でも、『パンプシェードの創作ももっと本気で取り組みたい』という状況で、両立が難しくなり、決断しました」
そうして、アトリエを構え、現在はモリタ製パン所の代表として活動しているそう。
「今、自分の作品という認識でやっているんです。経営者として、大きくしたいと考えたこともあるけど、そうなってくると、自分の目の届かなくなる。そんな中、『どれだけ自分の求めるクオリティを維持できるか』ということを考えると、大きくすることだけが答えではない気がする」
現在は信頼できるアシスタント2人には、ほとんど作業をお任せをしている部分もあるという。写真、右の方がその一人。
「やっぱり、数字だけを追っているわけではないので、そういう拡大はちょっと違うかもしれない。でも、このままずっと一緒というのも、違うかなと考えてる。その時々でいいと思える判断をしていきたいなって。先のことは明確に決めてなくて。でも、努力しないわけじゃなくて。このまま少しずつ前進していくことで、きっといい未来が待ってるだろうと思ってて」
そういう意味で、前進する方法として、パンプシェードのバリエーションをどんどん出すことは、あまり考えていないそう。
「それは新しいことをしてるっぽく見えるけど、私の求める方向性じゃない。たまにメロンパンや、なぜかカレーパンでやってほしいと言われることもあるけど、パンだったらなんでもいいわけじゃない」
「それに新しいものをぼんぼん作るのは、私の中で、ハードルの低いもの作りの方向性。今考えているのは、例えば断面を見せるとか。パンの新しい魅力や違う部分を見せられるもの。例えば、フランスパンとバターロールの断面は違うし」
新しいモノでも、ただ種類を増やすのではなく、見せ方を考える。
考えることが、もともと好きだったそうで、「いいなって思った時、なんでいいと思ったか?なんで、引っかかったのか?面白いと思ったのかを考えるくせがあった。パンプシェードも引っかかり続けた自分がいたから」と話されていました。
―お話をうかがって―
その人が何を追っているのかって、その人で違う。そして、その人をらしさの一つなんだろうなって思ったり。
「パン屋さんで、パンを選ぶとき、『こっち?こっち?』って見ないけど、パンプシェードを選ぶときはじっくりパンを観察する。お客さんにそういう機会を作れた時に、パンの新しい魅力に気づいてもらえたかなって」
こう話されていて、森田さんは本当に数字や世の中の評価じゃない、別のものを追っていらっしゃるんだろうなって感じまして。
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